久慈 ユセィ釣り大会

2013年02月22日 | 関連する集落:久慈
旧暦一月一日にあたる、2月10日。

旧正月のこの日、ちょうど日曜日ということもあり、
島内各地では旧正月を祝う会、ナンコ大会など、
さまざまな催しが行われたようです。

瀬戸内町の久慈(くじ)集落では、「ユセィ釣り大会」が開催されました。


「ユセィ」とは、和名エソ。
一般的に、カマボコなど練り物製品に使われる魚です。

旧正月に、なぜ釣り大会? なぜエソ?と、
疑問を抱きながら、久慈集落へと向かいました。

 



久慈は、瀬戸内町の中心部・古仁屋から西へ、車で約40分のところ。
75世帯、人口125人(平成25年1月末現在)の集落。
久慈小・中学校もあります。


集落に到着したのは、午後2時半過ぎ。
公民館前には、すでに人がいっぱい。
 



そこへクーラーボックスを抱えた人たちが次々にやってきていました。

ちょうどユセィ釣りから戻ってきた人たちが計量しています。

いろいろな魚を釣っていても、
計量の対象となるのは「ユセィ」のみ。

この日一日で釣ったユセィの総重量と、
一番大きいユセィ一匹の重さを量っています。

 


 



旧正月恒例となる、「久慈 ユセィ釣り大会」。

今年は、男性23名、女性6名、子ども1名の合計30人の参加でした。


この日は、朝7時30分に公民館前に集合し、開会式。

午前8時、集落に軍艦マーチが流れるなか、
それぞれの船に乗って一斉に出港。

その後は、自由に釣りを楽しんで、
午後3時までに計量を終える、というルールです。

参加費は男性1人1,000円。女性と子どもは無料。
この会費は夕方からの反省会費込み。



計量した結果は、どんどん表に書き込まれていきます。
 



待っている間に、婦人会のみなさんが準備してくださったうどんをいただきました。
シマの行事の時によく出されるこのうどん。
シンプルなんですが、とっても美味しいんですよね。



「まもなく3時です。計量の終わってないかたは早く済ませてくださいー」と
集落で放送が流れます。

やはりみなさん、ギリギリまで粘ります。


ユセィは、東シナ海など暖かい海域に分布し、
このあたりでは久慈・薩川湾に生息。

水深70~80mで活動する魚で
漁期は12月~翌2月までの3ヵ月間ほど。
 

▲町内のスーパーなどでお目にかかったことない・・・と思います。


昔から、久慈ちかくの集落、花天・伊目・古志あたりでは、
正月料理のヒムン(焼き魚)として、このユセィを使用。

現在、ヒムンは生の魚をそのまま焼いていますが、
昔は、いったん干物にしたものを焼いていました。
そのためユセィは正月時期の保存食として重宝されていたそう。


以前は、この時期になると
それぞれユセィ釣りに出かけていました。

「遠くまで行かないと釣れない魚だから、船を持っている人の口にしか入らない高級魚。
だから正月に大切に食べられていたんだろうね」と、集落のかた。
 


参加者が釣った魚は、個人で持ち帰ったり、
あとは反省会で食べたり、集落の希望者に分配。

とくにお年寄りのかたがたは、ユセィをもらうのを楽しみにしているようで、
思い入れのある魚だということが分かります。
 



こんなふうに、ほかにも美味しそうなお魚が釣れているのですが、
あくまでこの日の主役はユセィです。



今では旧正月の恒例行事となっているこのユセィ釣り大会。

昔は、正月用にそれぞれユセィ釣りに行く習慣が、
集落の娯楽として、大会化されたもののようです。

一番最初に開催された正確な年号は不明ですが、
約30年ごろ前からスタート(昭和52年にはすでにあったという証言もあり)

途中、中断した年もありましたが
「地域の食文化に根づいているユセィ釣りの楽しさをみんなで味わおう」と、
その後再開。


さて誰が優勝するでしょうか? みなさん気になります。



結果を集計している間、
婦人会のみなさんが反省会用のユセィをどんどんさばいています。
 



「ほら、ハブの顔みたいでしょう?」。

婦人会のかたが見せてくださいました。
確かに頭が三角で、するどい顔つき!
 


「塩をふって焼くのが一番美味しいですよ。
小骨が多いけど、好きな人は骨切りにして刺身や、背越しにして酢味噌で食べる人もいますよ」。

この時の反省会用には
開いてブツ切り・塩で味付けして片栗粉をまぶし、から揚げに。

ちなみにヒムンで使う時は、
頭を切り落として二枚開きにし、塩焼きにしたものを切って使用するとのこと。



さて、計量もすべて終わり、
反省会の準備が整いました。

もちろん乾杯でスタート!


そして表彰です。

子どもの部は、久慈小中学校に通うくるみちゃん。
この日は、イベントがあったり、中学生はテストが近かったりで
校区の子どもの参加がくるみちゃん1人だったけど、よくがんばりましたね~。




この日ユセィを一番多く釣った「大漁賞」は、合計4.74kgの福島さん!



そして、「大物賞」は、一匹が1.07kgの龍元さん。
「自分の小さい頃は(昭和28年生まれ)、
正月頃にはずらっ〜とユセィを干しいて、保存食にしていた。
内地に一旦出てたけど、シマには昭和52年に戻ってきて、大会には毎回出てる」。



このあと龍元さんが釣ったのを見せていただきましたが、
他のものと比べ物にならないぐらい大きくてビックリ! 

▲左のが「大物賞」を獲得したユセィ


2月10日にちなんで210gに近い人は当日賞、
女子の部の表彰、ブービー賞も。


受賞者が発表されるたびに、会場は大盛り上がりでした。

 



お待ちかねのユセィのから揚げが登場です。


小骨が多いので心配していましたが全然気にならず、
外はパリパリ、中はふっくらと揚がっていて食感もバツグン。
白身の上品な肉でとっても美味でした。




旧正月ということで、ヒムンも配られていました。



反省会の間、シマのみなさんに
ユセィにまつわるいろいろなお話をうかがいました。
 



現在、ユセィ釣りの餌はキビナゴで三本針の仕掛け。

昔は、擬餌針の一本仕掛け。
擬餌針は、赤や黒の羅紗の着物を短冊に切って輪ゴムで付けたものや、
輪ゴムをタコに似せて作り、石をおもりとして使用。

ノーという糸巻き(今のリール)で釣っていたそう。
ノーで釣る時は、おもりの石に糸をくるくる巻いたものを海中に落とし、
海底近くで石がはずれ落ちると同時に、ふわりと擬餌針が舞って魚を誘うという釣りかた。

擬餌針を躍らせる必要から、
釣り人は船の上で、糸をうまく操らなければならなかったそう。

その様子が踊っているように見えたことから
久慈では「踊り上手は、釣り上手」と言われてるとか。
 



昔は、それぞれで釣りに行き、
贅沢な魚なので正月用として特別に食べていたユセィ。
現在でも新暦の正月には、ヒムンとして食べているそう。

そんなユセィは、集落にとって大切な存在。
話はつきません。

この久慈ならではの食文化を残していこうと、
旧正月の行事として、みんなで楽しみながら集落で守っています。

 


大物賞を取った龍元さんが
こんな言葉が久慈にはあると教えてくださいました。

「 ティバンシャヌハナヌ サキュンコロヤ、ハナユスィヌクユリ 」

ツワブキが咲く頃は、ユセィが釣れる


また、

「 ティバンシャヌ マンカイシュンコロヤ 、フテサンユセィヌクユリ 」

ツワブキの花が満開に咲く頃には、大きいユセィが釣れる




旧正月の頃に、旬を迎える魚「ユセィ」を
その季節の花が咲く様子になぞらえる。

ティバンシャ(ツワブキ)も、
大晦日のウヮンホネ(豚骨)との煮物にかかせない食材。


まさに自然に寄りそった、
シマ(集落)の暮らしをあらわす素敵な言葉に出会えました。


 









2013.2.10 瀬戸内町 久慈 

S.B.I (瀬戸内町 文化遺産 活用実行委員会) 広報K

鹿児島県 奄美大島 瀬戸内町立図書館・郷土館内